癌と活性酸素(1)

活性酸素が引き金の病気

人間は、長い進化と淘汰の歴史の中で活性酸素の攻撃に対抗でいる優れたシステムが備わり、動物界の中でもとびぬけて長寿なのですが、そのシステムも一定の年齢までで、それ以降はこの優れた防御機能もゆるみが生じたり、隙ができやすくなって老化や成人病にかかる機会が加速されます。

 

それらの活性酸素に対する防衛機能のゆるみや隙がもとで起きる現象としては、細胞レベルで起きる過酸化脂質による障害や、遺伝子情報のエラーがもとになる癌、免疫の異常で起きる関節リウマチ、動脈の弾性が失われて硬くなって心臓や脳の動脈の内側に血栓が出来たり、狭くなって詰まってしまう病気など、広範囲にわたります。

学者によっては、こうした活性酸素に起因する病気を「フリーラジカル病」と呼んでいるくらいです。

これからは、フリーラジカルや活性酸素の研究がいっそう進むにつれて、その発生のメカニズムがより明確になり、さらに多くの病気と活性酸素のかかわりも解明されて、それに対する対策も生まれてくることでしょう。

まず、癌と活性酸素とのかかわりから話を進めていきたいと思います。

 

細胞が無限に増えない仕掛け

癌と活性酸素の問題を整理してみましょう。

遺伝子は細胞の核の中に納まっていて、核膜で包まれているといった格好をしています。

この核膜も生体膜の一種で、脂肪酸が主原料となってできた細胞膜などと同じ形をしています。

ですから、活性酸素はまずこの核膜を壊してしまう可能性があります。

この核の中に、自分が自分であるのを決めているデオキシリボ核酸、略してDNAといいますが、染色体を構成している主要な部分があります。

DNAは、ちょうど梯子がねじれた螺旋状の形をしています。

これが縦に割れるように分裂して、新しいDNAをつくり細胞は増殖していきます。

この梯子の足を乗せる横棒のところは、四種類の塩基という物質でできています。

この四種類の塩基には、アデニン、グアニン、シトシン、チミンという名前がついています。

この組み合わせから、30億にも上る膨大な遺伝子情報を持つことが出来るようになっています。

ですから、私たちの体の中には60兆X30億という遺伝子情報があるわけです。

天文学的な数字、という言葉がありますが、宇宙だけでなく私たちの身体もミクロの単位でとらえるととてつもない数の集合体であるということが分かります。

体を形作っている細胞のことを「体細胞」といいますが、この体細胞は、古くなると死んで剥がれ落ち、新しい細胞にとって代わるという新陳代謝が絶えず繰り返されています。

ただし、脳の細胞だけはべつで、こうした新陳代謝が行われません。

一方、肝臓や肺といった臓器の体細胞は速いスピードで新陳代謝が行われます。

新しく作られる細胞は、古い細胞のコピーといえるもので、形や性質なども古い細胞と全く同じものが作られます。

DNAには、体を形作るたんぱく質が作り出されるための設計図があって、いつ、どんなたんぱく質を、どれくらいの量、どのように作るか、という情報が書き込まれているので、寸分たがわない細胞が出来るのです。

おもしろいことに、細胞は体の中で分裂を繰り返すのですが、無制限にとめどなく増えていってしまうわけではありません。

必要なところまで細胞が増えると、そこでストップがかかるように仕組まれています。

これも、DNAの梯子の足を乗せる横棒に塩基のところに情報が書き込まれているのです。

 

癌も活性酸素が犯人

さて、この遺伝子情報のうち、ストップを買える情報に異常が起きるとどうなるでしょうか?

細胞はとめどなく増殖し続けて隣の細胞を押しのけてもなお増え続けて、最終亭には組織や臓器を壊し、全体のバランスを崩してしまう事になります。

これが癌細胞です。

 

ストップをかける情報になぜ異常が起きるのか?

これまでにも様々な議論がされてきました。

 

かつてはウイルス説があって、特にアメリカが中心だったのですが、ウイルスについて徹底的に研究された結果、一部のがんは説明できたのですが、すべての癌の発生のメカニズムを説明することは出来なかったのです。

 

次に、ニトロソアミンやベンツピレンといった化学物質がその引き金を引いているのではないかと調べられましたが、これも一部は説明できても、癌のすべてを説明することはできませんでした。

そして、現在最も有力な引き金は、この活性酸素やフリーラジカルではないかと考えられるようになってきたのです。

その理由を簡単に説明すると、活性酸素ががんの抑制遺伝子に突然変異を起こして、発がんの引き金になっている可能性が高いと考えられています。

さらに癌細胞は、体の中では異物ですから、これを片づけてしまう殺し屋のキラー細胞が準備されています。

活性酸素を消去する酸化防止機構が十重二十重に張り巡らされているように、癌細胞をたたく機構も、おそらく十重二十重にできているに違いありません。