動脈硬化と酸化(1)

戦後の病気の変化

日本人の死因を戦後50年の時系列でみてみると、その変わりように驚きます。

戦後は結核とか肺炎で亡くなる方が圧倒的に多かったのですが、抗生物質の開発が進み、栄養状態の改善とか、環境衛生の向上などが加わり、死亡率をどんどん下げていきました。

 

かつての恐ろしかった病気も今では過去の病気になってきました。

それと入れ替わるように、脳血管疾患という病気で亡くなる方が急速に増加してきました。

これは、脳の動脈が破れて出血したり、動脈が詰まったりして起きる病気で、一般に脳卒中と言われています。

破れて出血する方は昭和30年をピークに、動脈が詰まる方は昭和50年をピークに下降線になってきています。

ですから両方を合計した脳血管疾患という病気で亡くなる方は、現在では下がってきてはいますが、死因の第三位とやはり恐ろしい病気の一つです。

戦後一貫して上昇線をたどっているのは悪性新生物、癌ですが、それともう一つ心疾患です。

心疾患と脳血管疾患の共通する病態である動脈硬化について活性酸素とのかかわりあいを見ていきましょう。

心疾患という病名ですが、この病気は心の病気ではなくて、心臓の病気のことです。

現在では癌に次いで死因の第二位という恐ろしい病気で、戦後一貫して増え続けている病気でもあります。

いくつか心臓の病気がありますが、特に問題となるのは心臓に栄養や酸素を運んでいる動脈の故障です。

この動脈は「冠動脈」という固有の名前がついていて、心臓を動かすのに大変重要な役割をしています。

 

心臓について

ふつう、心臓は1分間に70回ほど鼓動をしています。

1日には約10万回、1年に3600万回、80年生きるとすると実に25億回も、ひと時も止まることなく動き続けているわけです。

ですから、この冠動脈を老化させないようにすることが長生きのコツです。

この冠動脈が色々な原因でつまってしまうことがあるのですが、そうしますと心臓の筋肉に酸素や栄養が保有できなくなって心臓の筋肉は壊死して細胞が壊れてしまい、心臓も停止してしまうのです。

これを心筋梗塞といいますが、電撃的に死に至るという大変恐ろしい病気です。

特に、アメリカではこの病気で亡くなる人が多く、その予防にアメリカは一生懸命です。

日本でも、そうした意味ではアメリカに近づいてきたといえ、国も予防対策をしています。

心筋梗塞の原因は、動脈硬化です。

これは心筋梗塞だけではなく、脳血管疾患も同じ動脈の効果が原因ですから、動脈硬化を防ぐと死因の第二位と第三位を同時に防ぐことが出来るというわけです。

 

動脈の栄養は流れる血管から

動脈というとゴムのホースを想像されるかもしれませんが、なかなか複雑な構造をしています。

動脈の血管は筋肉組織からできていて、血管を先へ先へと押し流す役割をしています。

そして、この動脈も始終、新陳代謝を繰り返しているのですから、当然、栄養の補給を受けなければなりません。

動脈の場合、血管の外側3分の2は血管の外側にある別の血管から栄養の補給を受けるのですが、内側3分の1は血管の中を通っている血液から直接栄養を補給してもらっています。

この動脈の内側には薄い膜のような部分があって、これを血管内皮細胞といっています。

この内皮細胞は、ちょうど風呂場のタイルのような恰好をしています。

タイルの1個1個は細胞1個1個にあたります。

その細胞を埋めているのは、タイルではセメントですが、内皮細胞では、コラーゲンとかムコ多糖類といったたんぱく質で繋がれています。

要するに、細胞が人並びの薄い膜のようになっています。

この膜、血管内皮細胞は、中々重要な仕事をしています。

血管は血液から栄養を補給してもらっていますが、栄養が血管壁に中に多く敷き込んできてもらっては困るのです。

油が多く滲み込んでくると、血管の老化が促進されてしまいます。

ちょうどころあいの栄養を取り入れるのがこの内皮細胞の役割の一つなのです。

 

ここで、動脈の血管の内側に何かの理由で傷がついたとします。

ちょうど手を怪我した時にできる血の塊、「かさぶた」と同じように、この内皮細胞にも血の塊が出来ます。

血管がどんどん流れているのですから、この血の塊は次第に大きくなっていきます。

これが「血栓」と言われているかさぶたのようなものです。

 

手の怪我でしたらほおっておけば、かさぶたは剥がれ落ちて、傷が治ったということになるのですが、血管の中ではややこしいことになりかねません。

血管の中でこの血栓というというかさぶたが剥がれ落ちたら、その血栓はどこに行くのでしょうか?

血管の中を、どんどん流れていくことになります。

血管は、先に行くほど枝分かれして細くなっていくのですから困ります。

ついには、血管を詰まらせてしまう事にもなるのです。

一体、この血栓はなぜできるのでしょうか?

血栓のもとは、血液の中にある血小板です。

 

何もない時は血液の中を流れているだけなのですが、いったんことが起きると血小板は一斉に集まってきます。

そして、べたべたとお互い同士がくっつきあって傷口をふさぎます。

ところが、血液の粘度の高い人では別に傷もないのに、内皮細胞に血小板がこびりついて血栓を作ってしまう場合もあります。

この血栓をコントロールしているのが、プロスタサイクリンという物質と、トロンボキサンという物質です。

プロスタサイクリンは、内皮細胞が作り出す不飽和脂肪酸の一種で、プロスタサイクリンが順調に出てきていれば血栓はできにくくなるという効果があります。

 

しかし、トロンボキサンの方が強くなってプロスタサイクリンが劣勢になると血栓ができやすくなります。

このプロスタサイクリンの力を弱めてしまう原因の一つが過酸化脂質の仕業です。

過酸化脂質は脂肪酸が活性酸素のいたずらで異常に酸化したものですが、血液の中にも存在してこうした悪さを働くのです。

その原因の大半は、脂肪酸の摂り方です。

バターや牛肉、豚肉など動物性の脂肪を多く食べている欧米の人たちにこの傾向が多いのに対し、日本人は魚を多くとることで血栓ができにくかったのですが、最近は日本でも食事が欧米化する傾向にあり、欧米の人たちと同じように心筋梗塞の死亡率が上昇してきたのです。

しかし、一方で、脳の動脈の出血は脂肪の摂り方が潤沢になってきたために減少してきているのですから、脂肪の摂り方は重要で微妙な問題です。