ビタミンと薬(1)

ビタミンの食品と薬

食品と薬とは、どう違うのでしょうか?

たとえば、ビタミンCは食品でもありますし、医薬品としても市販されています。

この食品か医薬品かの区分は、なかなかの難問なのです。

 

厚生省は、行政の立場から食品と薬との違いを明確にしないと、薬事法という薬を司る法律を守ることが出来ませんので、具体的に厚生省薬務局長通達という文章で詳しく薬と薬以外のものを区別しています。

それは、「無承認無許可医薬品の指導取り締まりについて」(昭和46年6月1日)という少しいかめしい標題の通達です。

その基本的なところを紹介してみましょう。

「人が経口的に服用する物が、薬事法に規定する医薬品に該当するか否かは、その物の成分本質、形状及びその物に表示された使用目的・効能効果・用法容量並びに販売方法、販売の際の演述等を総合的に判断して、通常人が薬事法に掲げる(治療や予防の)目的を有するものであるという認識を得るかどうかによって判断すべきものである」。

この文章は、普通の人には何を言っているのかよくわからない文章ですが、簡単に言えば、口から入るものを薬とそうでないものに区分するのは、錠剤とかカプセルといった形(これを剤型といいます)だとか、何々に効くといった効能のうたい方など、様々な状況からみて、だれが見ても薬だと思うものは薬だ、ということです。

 

ここまで解説されても、どうもわかったような、分からないような話ですが、薬と薬以外のものとの区分けはそれほどむずかしい問題なのです。

抗生物質だとか風邪薬が薬だということは誰にでもすぐわかります。

しかし、ビタミンが薬かどうかということになると、困ってしまうのです。

困るものをいくつか述べてみると、ビタミンの他、乳酸菌、香辛料、ミネラル類などが身近なものとしてあげられます。

これらは、薬と食品の境目にあるものといって良いでしょう。

あるときは薬になるし、ある時は食品にもなるといった、境界線上にあるものなのです。

こうした厄介な区分の問題は専門家に任せるとして、一般の人が薬かどうかを見分けるのにはどうしたらよいのでしょうか?

 

一つの目安としては、効能効果が書いてある、成分の量が書いてある、服用量や服用の方法が書いてある、この四つの項目がそろっているものは薬と考えていいでしょう。

ですから、キウイにはビタミンCが入っていることは誰でも知っていますが、何も書いていないので薬ではないということですし、たとえビタミンCが入っていると書いてあっても、効能がうたってないものは薬ではありません。

 

薬の厳格さ

外見上は薬と食品の違いが分かったと思いますが、中身も違うのでしょうか?

薬の場合は、大変厳格な決まりのよって作られています。

たとえば、ビタミンB₁が10ミリグラム配合されている錠剤の場合をその決まりに当てはめると、ビタミンB₁が9.5ミリグラム~11ミリグラムの間に、どの錠剤にも必ず配合されていなければならないのです。

この量より多くても少なくてもいけません。

この範囲を外れたものが市販で見つかると、不良医薬品としてすべて回収しなければならないという厳格さなのです。

ということは、表示をした成分が出来上がって市販された後も、表示通りにきちんと入っているかどうかを試験する試験法も確立していないといけません。

「作るときにはたしかに入れました」ではだめなのです。

保証した期間は表示通りの量が入っていることが証明できなければ薬とは言えません。

さらに大変なのは、かりに10種類の成分がそれぞれ1ミリグラムずつ配合されている顆粒剤があったとしましょう。

この顆粒剤を、子供の場合、2分の1包だけ飲みなさい、という規定があったとします。

この規定の前提として、どこをどう2分の1に分けても、その片方に10種類の成分が0.5ミリグラムずつ入っていることを保証しなければならないのです。

これは、どんな剤型(錠剤、カプセル剤などといった薬の形)でも共通した考えで、薬というものは多く飲み過ぎると副作用がありますし、少なすぎては効果がないかもしれません。

しかも「ミリグラム」という微量な世界です。

ですから、たとえ、ビタミンのようにそれほど厳密にしなくともよいと思われるものでも、いったん薬ともなれば、薬的厳格さを要求されるのです。

つまり、薬は厳格さゆえに安心して飲むことが出来るといえます。

 

薬は怖い、とお思いでしょうか?

確かに「毒を以て毒を制す」というような言葉もあるくらいで、薬の中には毒と同居しているものもありますから、十分に注意を払って使わなければなりません。

しかし、薬全部が怖いわけではありません。

皆さんが薬局・薬店で買った薬の説明書を見てください。

「使用上の注意」という項目の中に、「定められた用法・容量を守ってください」と書いてあるものと、「厳守してください」という二種類があります。

もちろん、どちらも用法・用量を守ることには変わりはないのですが、「守ってください」と書いてある薬の方は、副作用も少なく、穏やかな作用を持ったものです。

ビタミン剤は、「守ってください」の方に属しています。